犬仙人
ある村にそれはそれは貧乏な家がありました。たまたまその家の前を通りがかった一人の仙人が、気の毒に思って、犬に化けて、この家にやって来ました。それはなんとも可愛らしい犬で、家の者はその犬を飼うことにしました。
不思議なことに、犬が大きくなるにつれて、この家はだんだんとお金持ちになっていきました。近所の者は、犬を拾ったおかげで、あんなにお金持ちになれたのだ、と噂します。主人は、「そんな馬鹿なことがあるものか、みんな俺の力だ」と言いましたが、誰もその話しに耳を傾けることなどありませんでした。
主人は逆恨みして、「わしはお前のために、どれだけ迷惑しているかしれない」と、犬をののしり、大きな竹でたたきつけました。犬は不思議な声をたてて泣き出しました。それを聞いた近所の者たちは、「あの犬は、やはり仙人に違いない。泣き声を聞いても分かるじゃないか」と、口々に言いました。
主人は誰も自分のことを認めず、犬の味方ばかりされて、一層腹を立てました。そして、その犬を川へ流そうとしました。しかし、近所の者がしきりに「可哀相だから川へ流すことだけはやめてくれ」と頼みます。それで、川には流しませんでしたが、生きたままで、土に埋めてしまいました。
その後、しばらくして、先日、土に埋められた犬は、やはり仙人に違いないという噂が村中に広まったので、またしても主人は逆上して、顔に青筋を立てて憤ります。そして、村の者を立ち合わせて、埋めたところを掘り返しました。
するとどうでしょう。穴の中からは傷だらけの老人の屍が現れました。はじめて主人は自分の失策に気づき、人前も構わず、大きな声を立てて泣き出しました。
しかし、泣いてはみても、もう遅いのです。それから後、ほんのわずかな時間を経て、その家はまたもとのように貧乏になったといいます。変わらなかったのは、主人の人徳の無さだけでした。