乞食の唾
ある家の息子がお嫁さんをもらいました。ところが、結婚式の日、お嫁さんの後から、ぼろぼろの着物を着た乞食がついてきて、「どうか今晩ここに泊めて下さい」と頼みます。息子の母親は情深い人だったので、いやな顔もせず、「ああいいですとも。私の家にはまだ空いた部屋がありますからね。」と答えました。ところが、乞食は、「いや、私はどうしてもお嫁さんの部屋でやすませてもらいたいのです」と言いました。
母親は思案に余って、息子に相談しました。息子もまた、この母の血を引いて、情けのある男でした。「仕方がない。許すことにしましょう」と答えました。
こうして、乞食はお嫁さんの部屋に泊まることになりました。困ったのはお嫁さんの方です。恐怖のあまり、蒲団をかぶって、ぶるぶるふるえていました。
夜が更けた頃でしょうか。乞食はにわかに起き上がって、あたりかまわず、唾を吐きかけ始めました。そして、部屋中を唾だらけにしてしまいました。お嫁さんは布団をかぶって、一晩中、寝たフリをしていました。
夜が明けてから、おそるおそるお嫁さんが蒲団から顔をだしてみると、どこへ行ったのか、乞食の姿はもうありません。しかし、そのかわりに、あたり一面、黄金がちらばって、隙間からさしこむ朝日に、きらきらと輝いていたといいます。乞食の唾は黄金だったのです。
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